ブラジルの小学校英語教育事情

〈ブラジル〉加速する英語教育充実の動き。指導はホールランゲージ型。

小学6年生の英語の授業。先生と児童のコミュニケーションがよく取れている。

1964年から約20年続いた軍事政権の影響で、ブラジルの教育は長く放置され、現在もさまざまな問題を抱えている。初等教育は、施設不足を理由に午前、午後で児童を入れかえる2部制がとられている。

外国資本導入が政策の柱とされていたブラジルでは、初等教育における外国語教育の実施は1960年から国家教育基本法に掲げられているが、実際に小学6年生からの英語教育が法律化したのは1996年になってのことだ。といっても、その実施内容は地域による格差が大きいのが現状だ。

リオデジャネイロ州では学校による差はあるものの、1960年から外国語教育を開始した。6年生から第一外国語としての英語の授業が設けられ、50分の授業を週に2回おこなう。先生は英語教師の国家試験に合格した専門家が各学校に派遣される。小学校の一般教師になるのに大学を卒業する義務はないが、専門科目を教える教師は別格で、英語教師も同様。教科書はなく、各教師が制作したプリントが教材として使われている。

「英語教育の目的は、子どもたちをグローバル社会で生きていけるようにすること。街に英語表記がふえるなか、ほんとうに使える英語を学んでほしい」と、州立学校のモニカ・ナシメント先生は強調する。イギリスに3年間在住した経験を持つ、教師歴27年のベテランだ。「なぜ英語を勉強するのか。そこから身をもって学んでいくんです」と話す彼女の授業では、黒板を写したり、単語をリピートしたりしておぼえる児童はいない。子どもたちの興味がある話題に関する文章を読み、その内容を質問しあうことで、文法、単語を理解していく。

しかし悩みの種は、英語のテキストを直訳しようとする児童が多いことだという。「現在ブラジルではホールランゲージ型の指導が主流です。これは、一語一語を直訳して学んでいくのではなく、文章の意味を理解していくことに重点を置いて言語全体の理解を深める方法で、30年前とはまったく異なる指導法です」と話す。

現在、ブラジルの教育制度は目ぐるしく変化しているが、外国語教育もその波に乗っている。とくにオリンピックとサッカーのワールドカップのブラジル開催決定を受けて、リオデジャネイロ州では、2011年よりすべての小学校で1年生からの英語教育が義務化され、英語の教科書の無料提供も始まる。また、児童の受講義務こそないが、国公立小学校ではスペイン語をはじめとする第二外国語の授業の時間数も増加する予定だ。

グローバル化に対応すべく、英語習得は必須との教育方針のもと、教員養成なども含めた英語教育全般を充実させる動きが加速している。

文・写真/高橋直子  コーディネーション/ホリコミュニケーション

●『子ども英語』2011年1月号(アルク発行)連載「世界の小学校英語教育事情」より