香港の小学校英語教育事情

〈香港〉公用語であり、第二外国語である英語。授業は1年生から週6コマ。

英語以外のことばでの会話が禁止されている「Language Room」。この教室ではゲームやマジックショーなどの活動もおこなう。

 イギリス植民地時代の香港では、多くの公立学校で、英語で授業がおこなわれていた。しかし1997年の中国への返還とともに母語教育が見直され、授業は広東語でおこなわれることになり、英語は公用語ではあるが第二外国語として教えられるようになった。

その後、小学生の英語力の低下が問題になり、中学校では返還直後から導入されていたNET(Native English Speaking Teacher)が、2002年からは小学校でも導入されることになった。

現在、小学校1〜3年では、1レッスン40分の英語の授業が週6コマおこなわれている。文法や発音を中心とした「一般英語」が3コマ、読解力と表現力の向上をめざす「Reading Workshop」が3コマだ。4年生以上は一般英語が1コマふえ、授業は週7コマになる。

一般英語は香港の公立小学校共通の教科書にそって、香港人の英語の先生が教える。NETは各学校にひとりしかいないため、必要に応じて、主に発音の指導をおこなう。Reading Workshopは、英語以外のことばでの会話を禁止している「Language Room」に移動し、NETを含む3人の先生によって授業が進められる。ここでは児童がレベル別に3つのグループに分けられる。家庭環境によって入学した時点で、ある程度英語ができる子(たとえばフィリピン人の家政婦がいて、家政婦と英語で会話をする場合が多い)もいれば、まったく英語にふれたことのない子もいるためだ。

児童にはグループのレベルにあわせた本が与えられ、各自で音読したあと、グループ内でディスカッションをしたり、コンピューターでの課題に取り組んだりする。授業には毎回違う内容の活動が用意されている。

新年度が9月から始まる香港の小学校。学年末の7月には1年間の成果を保護者に見せるため、英語劇が披露される。また優秀な児童は香港の全小学生を対象に毎年開催されるスピーチコンテストに参加できる。

4年生になると、生の英語にふれるため、空港などの観光客が多いところに出掛け、インタビューをする校外学習がある。質問の内容はあらかじめ児童が自分たちで考え、それをもとにNETが英語の指導をする。

またランチタイムの校内放送では児童が英語で話す時間を設けたり、朝の全校集会では、「show & tell」*をおこなったりと、ふだんの学校生活にも積極的に英語を取り入れている。

香港の小学生は英語以外に、もうひとつ第二外国語を学ぶ。それは「普通話」**である。普通話の授業は小学1〜3年生は週2コマ、4年生以上は週1コマあり、発音を中心に学習する。中国や台湾出身の普通話を母語とする保護者は教室で普通話の本の読み聞かせをしたり、話をしたりと、普通話教育に積極的にかかわっている。

香港の子どもたちが将来、国際都市、香港で活躍するためには、英語と普通話教育は不可欠のようだ。

*児童が話題を選び、その話題にそった絵や写真を全児童に見せながら、説明する
**中国政府が定めた標準中国語、マンダリン

文・写真/リン美雪  コーディネーション/ホリコミュニケーション

●『子ども英語』2009年12月号(アルク発行)連載「世界の小学校英語教育事情」より