ポーランドの小学校英語教育事情

〈ポーランド〉「使える英語」にこだわりながら文法教育にも力を入れる。

公立小学校の校舎。

とある学校で使用されている英語の教科書。

ポーランドの英語熱は高い。一部の人に限らず、国民全体にその熱が感じられるのは、ポーランドが多くの移民を出しているからだろう。いわゆるホワイトカラーの仕事に就くには、英語ができることが絶対条件。肉体労働なら英語は必要ないと思いがちだが、ポーランドの肉体労働者たちはよりよい賃金を求めて国外へ働きに出る。その際、やはり最低限のコミュニケーション手段として英語が要求されるのだ。

このような社会背景を受けて、ポーランドの小学校では数年前から外国語教育が導入されている。一部の地域ではドイツ語が第二公用語として認識されているため、国は学校側に外国語の選択を任せたのだが、保護者たちの多くは英語を希望。しかし、教育現場での爆発的な需要に反して、教師不足は深刻だ。農村部の小学校ではそもそも英語教師を確保するのが困難なほか、都市部でも優秀な教師は待遇のいい私立の学校や語学学校に流出してしまうという問題を抱えている。

学校間のレベル均衡も課題のひとつだ。ポーランドでは各教師に任されている権限が広く、教科書も教師が選ぶ。そのため担当教員の力しだいで子どもの英語の習得レベルが異なることがあり、レベルの差は学年が上がるほど顕著になる。さらにクラスを半分に分け、少人数制で英語の授業をおこなう学校が存在するなど、教育の質にばらつきが出ている。

公立小学校での英語の授業は、低学年で週2時間、高学年になると3時間おこなわれる(私立の学校ではこの倍の時間が取られていることが多い)。この国の英語教育の基本スタンスは「使える英語」だ。よって、教科書の内容も会話文で構成され、ストーリーがもり込まれているものが多い。文法、会話などと時間を分けるのではなく、会話のなかの文法がピックアップされる授業形態だ。子どもは、高学年にもなると、かんたんな単文ならば自然と口にできるようになっている。

また、会話中心といっても、文法がおざなりにされるわけではなく、たとえば小学5年生では現在進行形を学習する。同じヨーロッパ言語とはいえ、ポーランド語と英語の文法は語順、時制などに多くの違いがあり、学習において文法説明は必須だ。多くの学校では文法説明を導入するのは高学年からで、子どもは無理のない過程をたどって言語を習得していく。

ポーランドでは、小学生から英語教育をおこなうのは早すぎる、といった声は聞こえてこない。世界の共通語としてできてあたり前、という気概で学校と保護者がともに取り組んでいる。概して外国語を操るのが上手だといわれてきた国民だ。子どもたちへの英語教育も間違いなくその成果を見せるだろう。
文・写真/ソルネク流 由樹 コーディネーション/ホリコミュニケーション

●『子ども英語』2010年12月号(アルク発行)連載「世界の小学校英語教育事情」より