第7回 Global Mom’s Heart
ママとして、想うこと。ママだから、想うこと。

確かな語学力をつけて、世界を舞台に活躍してほしい。豊かな国際感覚を磨いて、世界中に友達を作ってほしい。グローバル社会で子育てする私たちが、家庭で実践できるグローバル教育とは、どんなことなのでしょうか。

本連載では、将来、世界へ羽ばたく子どもたちにとって“最初の教師” となるママたちの奮闘を描きます。言葉の土台を築き、世界へのまなざしを開く最初の存在が、ママだからです。学校や塾とは違い、家庭教育にはテキストもマニュアルもありません。家族の数だけ存在する、多様なグローバル教育のあり方から、なんらかのヒントを得て頂ければ幸いです。

■言葉よりも、イヤイヤ期をどう乗り越えるかが問題だった

グローバルマム1東京都在住のゴロウィナ・クセーニヤさん(ロシア出身)は、大学でロシア語講師・文化人類学研究者として働くワーキングマザー。日本人の夫と二人三脚で、4歳の男の子と、2歳の女の子を育てています。

子どもたちにも、ロシアと日本、両方のバックグラウンドを大切に生きてほしいと願っている彼女は、出産前からバイリンガル教育について高い意識を持ち、心の準備もしていました。「最初は何とかなるだろうと思っていたんです。でも、いざ産んでみたら、もう言葉どころじゃなかった。毎日が目まぐるしくサバイバルで。まずは夫とスピーディーに会話しなければ成り立たないでしょう。2言語で話しかけている余裕なんてないから、夫と一緒にいるときは便宜上ほとんど日本語でしたね。」

理想と現実とのギャップが解消されないうちに、長男のIくんは1歳から区内の保育園へ。数ヶ月で日本語だけが一気に上達したといいます。

「本当に、驚くほどの速さでした。以来、この子は日本文化を背景に育っているのだと感じる瞬間も、年々増えています。例えば……『◯◯しちゃいけないんだよ』というセリフを頻繁に言うようになりましたね。こうした規範意識の強さは、とても日本的だと感じます。」

一方、日本社会では、ロシア語やロシア文化に触れる機会は、意識的に作らなければ、ほとんどありません。Iくんが2歳になった頃からロシア人が運営する幼児教室に毎週末通わせ始めましたが、どうしても馴染めず断念したのだそう。「イヤイヤ期も重なり、ロシアの絵本を見るだけでも全身で嫌がる時期があって。そのときは本当に辛かったです。」

その後、語学中心のいわゆる母語教室に変えたところ、楽しんで通えるように。現在、Iくんの発話はほとんど日本語ですが、パパがロシア語の教育番組を子どものために録画してくれるなど夫婦で協力しながら進めてきた甲斐もあり、ロシア語の意味はおおよそ理解できるようになってきたといいます。「今は、家庭でも外出先でも、ロシア語と日本語を半々くらいで語りかけています。ストイックにロシア語やロシア文化を子どもに教え込むのではなく、子どもの反応を丁寧に見極めながら」

グローバルマム2

親子共にリラックスして会話を楽しんでいる時は、手応えも大きいのだそう。「最近、大切にしているのは、保育園に送迎する片道15分の道のり。手をつなぎながら『黄色いものの名前をロシア語で言ってみようか』など、遊び感覚で、おしゃべりしながら学ぶんです。」

ただでさえ心の余裕を持ちづらい乳幼児期の子育て。ロシア語、日本語、英語のトリリンガルであるクセーニヤさんにとっても、バイリンガルで子育てをするには相当な根気が必要だといいます。それでもなお、柔軟に両言語を使い分けながら子どもに語りかける優しい瞳の奥に、母親としての深い想いを感じました。

■伝統文化への憧憬と、社会を支えてきた無名の女性たちへの想い

グローバルマム3クセーニヤさんが初めて日本を訪れたのは、13歳のとき。当時所属していたサンクトペテルブルク少年少女合唱団の一員として、1ヶ月間にわたり日本全国を巡演しました。ドイツ、フィンランド、デンマークなど世界各国で公演してきた彼女にとって、日本は特別に忘れがたい国だったそうです。

「緑茶の香り、真夏の日差し、畳の心地よさ、やわらかい布団……見るもの、触れるものすべてが、ロシア(旧ソ連)では経験したことのないものばかり。3人家族のホストファミリーをはじめ、行く先々で出会う人たちの優しさも印象的でした」

そうした経験がきっかけとなり、サンクトペテルブルグ国立大学に進学後は東洋学科で日本語・日本文化を専攻。さらに、名古屋大学で1年間語学を学んだ後は、文化活動のビザに切り替えて、乙女文楽座(※)の門を叩き、史上初のロシア人研修生に。毎月2回、名古屋から大阪まで通い、吉田光子氏(故人)に師事して1年間の稽古を積みました。

※ 女性が1人で遣う人形浄瑠璃。

グローバルマム4そうして、数百年もの長きにわたり継承されている日本文化への理解を深めるうちに、ある疑問を抱くようになったといいます。

「格式高い伝統文化も、活発な商業・経済も、その発展を陰で支えてきたのは女性たちなのに、日本では、なぜこれほどまでに女性が周縁化(※)されているのでしょうか?世界から見たら、日本社会を支えてきた女性たちの貢献度は驚嘆すべきものだと思います。にもかかわらず、日本国内では女性のすごさがほとんど語られていません。それがとても不思議です」

※隅へ追いやられる。表舞台から外される。

その後、2006年に再来日し、大学院を卒業。2012年に結婚した彼女。ワーキングマザーとなってから、「日本文化に生きる女性」に対する想いは、さらに深まっているようです。「夫や子を、陰で支える。それは素晴らしいことです。しかし、妻や母としてだけでなく、一人の女性としての願望、『自分はこういう人になりたい』といった夢も、人生には不可欠。自分らしさを輝かせるためのネゴシエーションは、日本で生きていく上でも大切にしたいです。」

■地域社会の一員として、素顔で集える多文化共生子育ての場を。

グローバルマム5いま、彼女が自分らしさを発揮できる大切なコミュニティ。それは多文化共生のための子育てに関する活動をしているNPOイクリスせたがや(http://icris-setagaya.com)が主催する多言語絵本の読み聞かせ会です。 発足当初から副代表として運営にかかわり、ロシア語絵本の読み聞かせも担当しています。

「この会では、お互いの国籍を意識することはほとんどなく、地域社会の一員として多様な親子が交流しています。外国人としてではなく、1人の人間として集えるから心地良いんです」

目の色、肌の色、髪の色、名前、生活習慣。ちょっとの違いが強く意識される日本社会にあっては、今後も親子ともに悩むことはあるかもしれない、と淡々と語ります。

「でも、子どもたちは、言葉の意味が多少分からなくても、丸ごと吸収して楽しめる力をもっています。また、「違い」をどう捉えるかは、私たち親のリアクション次第です。私自身は、留学や国際結婚を通して素晴らしい出会いに恵まれ、フレキシビリティ(柔軟性)を磨いてくることができました。多様性をプラスにとらえる生き方を、今後も私らしく体現し、子どもたちに伝えていきたいです」



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