第6回 横山匡さんに聞いた!ジュニア期に親ができる最高の「グローバル教育」とは。

小学校5~6年生の英語の教科化、大学入試英語試験の4技能化など、2020年度に予定されている大幅な教育・入試制度の改革を前に、焦りを感じているお父さん・お母さんも少なくないのでは。

しかし、学びの主役はあくまでも「子ども」。英語学習や留学についても、強制ではなく自発的に興味を抱いてもらいたいと願うのが親心だと思います。

そこで今回は、若者たちの情熱に火をつけるプロフェッショナル、世界に飛び出したくなるきっかけづくりに人生を捧げるアゴス・ジャパンの横山匡さんに、ジュニア期のグローバル教育において大切なポイントを聞きました。

■「3つも好きなこと」があれば大丈夫。

横山匡(よこやま・ただし)氏 アゴス・ジャパン代表取締役社長 東京都荒川区出身。14歳から2年間をイタリアで、16歳から約10年間弱をアメリカで過ごす。UCLA卒業後に帰国し、「2人として同じ留学なし」をモットーに、30年以上にわたり、語学・留学指導を通して多くの人材を国際舞台に送り出している。

-アゴス・ジャパンでは主に高校生以上を対象に留学・語学指導を展開されている横山さんですが、今年は児童書(※1)の監修も手がけるなど、ジュニア世代にも光を当てておられますね。最近は子どもが幼いうちから親子留学や英語教育に熱心な親御さんも増えています。

横山:留学・語学指導を本業として30年以上経ちますが、日本では「留学・語学は試験・就職のため」という意識が圧倒的に強いと感じています。しかしジュニア期は本来、大げさに将来を考えるような年齢ではありません。子ども自身が「やってみたいな!」と感じるままに動いていれば、必ず次の出会いにぶつかるものです。 ジュニア期には、試験や就職以外の、「子供たちが自然とやりたがる」という意欲づけがもっともっと必要なのではないか。そんな思いが児童書の刊行にも結実しました。

-横山さんは、幼い頃から海外に興味がありましたか?

横山:とんでもない。中学の英語の成績は、学年で最下位の5人にしかつかない「1」。下町育ちですし、海外なんて考えたこともなかったですね。相撲部屋によく遊びに行っていた当時の夢は、大相撲の行司になることでした(笑)。

-それが今や「世界の好きなところで好きなことを出来る人材」を2万人近くも輩出されているのですから、これを読んだら「英語ができないから、海外なんてうちの子には無理」なんて、もう言えませんね(笑)。横山さんが初めて海外に出たのは、14歳の頃と伺っていますが。 

横山:はい。父がある日、イタリア人宣教師に道を尋ねられまして。立ち話をしているうちに「イタリアに行くか?」という話になって……。

っ? 通りすがりのイタリア人宣教師がきっかけですか?

横山:はい。父は戦後、弟を大学に行かせるため、自分は高卒の道を選びました。ミシン修理工として働きながら、大好きなデザインの勉強を独学で続けてきたんです。話を聞いたそのイタリア人が、「じゃあ、俺の友人がオートバイ会社のデザイン部門にいるから、イタリアに行ってみるか?」と。ヨーロッパ最大手のオートバイ会社ピアッジオを擁する、ポンテデーラという小さな町です。父は「興味あるから行く」と即答。2、3ヶ月後には面接を終えて、あっという間にイタリアに飛びました。当時41歳だったと思います。私と母と妹は翌1972年に移住し、2年間イタリアで暮らしました。

-驚きです!お父様は「やりたいこと」が明確だったから、迷いなく海外に飛び出せたのですね。

横山:その通りです。移住した後も、ヘッドハントや昇格の話も全部断り、生涯現役のオートバイデザイナーとして働きました。私が父の背中から学んだ最大の教えは、「好きなことを見つけろ」ということです。

-それにしても、いきなりイタリアに移住すると聞かされた時は、動揺しませんでしたか?

横山:「へえ~」という感じですよ。驚きもしないし、嫌とも思わなかった。「イタリアってどこだろう?けっこう遠そうだな」と。あんまり難しく考えていなかったからかな。

-それは、横山さんの心が人一倍タフだったからではないですか?

横山:一つには、母の影響が大きいかもしれません。さっきお話ししたとおり、当時の僕の英語の成績は、学年最下位。美術も技術家庭も「1」でした。その代わり、体育・音楽・数学は文句なしの「10」だった。ある日、担任が家庭訪問の際に「匡くんは、叱っていいのか褒めていいのか分からないんですよ」と言いました。その時、母はケロッとした顔でこう切り返したんです。「3つも好きなことがあれば大丈夫です」と。僕の人生を救った言葉の一つです。あの時「全部ちゃんとやりなさい」と言われていたら、僕はグレていたかも知れない。

-好きなことを純粋に追い求めて夢を叶えたお父様と、ありのままを尊重してくれたお母様。そんなご両親との間に強い信頼関係があったからこそ、移住に不安や抵抗を感じなかったのかもしれませんね。

■「人と同じ」がリスクになる時代。人とは違う「特性」を見つけよう。

-実際に行ってからは、いかがでしたか? 現地に馴染むのは大変だったのでは…。

横山:初めは僕のやること為すことすべてが「ジャポネーゼは…」でしたよ。でも、人種や言語の違いが目立つのはせいぜい2、3ヶ月。そのうち「タダシ」と呼ばれるようになって。なんだ、僕は僕のままで良いんだと感じました。

-その後、ご家族でアメリカに渡り約10年間生活されました。横山さんが高校生から大学生の頃です。

横山:アメリカでも同じです。UCLA在学中には、バスケットボール経験もない日本人の僕が、NCAAのヘッドマネージャーに起用された。周囲は、経験や属性ではなく「僕そのもの」を信用してくれたのです。

-「◯◯人」「◯◯語話者」だけではない、多様なアイデンティティを含めて、1人の人間として見てもらえる。その自信が、どこに行ってもありのままの自分で居られる安心感につながるのですね。子どもが自分の特性に気づくためには、どのような教育が必要ですか?

横山:日本ではこれまで、みんなと同じ「1つの正解 (The answer)」を探させる基礎力重視の教育が行われてきました。それも大切な、基礎学力をはぐくむ教育です。私は日本の義務教育をとても高く評価しています。しかし今は、「人と同じ」がリスクになる時代。これまでの教育に加えて「私の正解(My answer)」を見つける力が求められています。その力を育むには、まずたくさんの選択肢に気づかせてあげること。そして、日々の自分に関心を持たせてあげることが重要だと思います。

-「人と違って良いんだ」と思い切るには、勇気が必要です。特に親には…。

横山:色々な道を知らなければ、カーナビに頼るように、気づかないうちに誘導されてしまいます。みんなが通る、一番混んでいてつまらない道を走らされることになる。競争も激しいし、途中では降りられなくなります。行動範囲を日本に限定する必要はありません。世界は日本の外にあるのではない。日本も含めて世界なんです。「世界なんて我が子には縁遠い」というメンタルバリアをゆるめて、興味・関心のフィールドを、広く開放してあげてほしいと思います。

■留学費用は、知識を得るために非ず。

-留学したいと言われて、すぐに応援できるかどうか……自信のない親御さんもいると思います。

横山:今は留学経験のある親が増えてきて、心理的なバリアは減ってきたものの、経済状況が厳しいのは確かです。しかし例えば、タバコを今日から死ぬまで1箱も吸わないと決めたら、いくら捻出できるでしょう?1日800円の無駄遣いを止めれば、50年で約1500万円です。

-家計における「留学」の優先度。改めてしっかり考えたい点ですね。

横山:親だけではありません。そもそも本人が、親を説得してでも「行きたい!」と思うかどうかなんです。アゴス・ジャパンでは毎年4、5組くらいの学生が僕のところに両親を連れてきて、説得のための家族会議をやりますよ。語学や留学によって何を学びたいのか、その学びを時代の何に活かしたいのか。本人の明確な自己分析・自己理解が不可欠です。

知識は今やタダの時代。ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学などの名門大学は今、授業を無料配信しています。ではなぜ、何百万円もかけて大学・大学院に行くのでしょう? そこに集い、「自分の学び」をブラッシュアップするためなんです。

-「知識」ではなく、「切磋琢磨」のための費用なのですね。

横山:2015年のTEDYouth@Tokyoでも触れましたが、僕の価値観の8割以上は、振り返ると20歳までに確立しています。ただ、その事実に気づくのはずっと後の事でした。それまでは興味・関心、直感に正直に生きてきただけです。しかし、ジュニア期の直感は意外と正しい。それを信じられる人と、疑ってチャンスを失う人との差は大きいと思います。

「Connecting the dots」というスティーブ・ジョブズ氏の言葉(※2)もあるように、点と点は振り返ってしかつなげません。ジュニア期に大人が出来ることは、子どもが将来、自由に人生の曲線を描けるよう、起点となる「第1の点」をたくさん置いておいてあげることではないでしょうか。いつの時点で第2の点と結びつき、1本の線になるのかは本人さえ分かりません。しかし、ジュニア期に「その時にはまだ見えない第1の点」をたくさんつくっておくことで、将来描ける線の多様性は限りなく広がるのです。

※1 『「英語」で夢を追うアスリート』(全5巻)、『はばたけ!「留学」で広がる未来』(全3巻)

※2 2005年6月12日、スタンフォード大学卒業式でのスピーチ

Dr.ビーバーの解説

横山さんの辞書によると、グローバル教育とは「英語を学ぶこと」でも「海外に行くこと」でもない。「私」という唯一無二の人材の応用範囲を世界に広げることなのじゃ。

「グローバルを語る前に、『私』を語れるようになければならない」と横山さんは言う。しかし、それは決して簡単ではないじゃろう。「私」という1人の人間の特性は、何十人、何百人もの多様な人たち、自分とは異質の人たちとの触れ合いを重ねなければ、なかなか見えてこんからな。

自分への関心が、世界への関心を高める。世界への関心は、自分への更なる関心を深める。そんな往還作業が、人生のフィールドを無限大に広げてくれるのじゃな。



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