第9回 Global Mom’s #3
何もかも違った 日本の子育て

呉 宛 儒(う わん る)さん

台湾で生まれ育った呉宛儒(う わん る)さん

日本には、異文化の壁をしなやかに乗り越えて、子育てに励んでいる海外出身のお母さんが多数います。大人になってから、慣れない文化や価値観の中に飛び込むのは、とても勇気のいること。ましてや、単一言語・単一文化の日本社会は、世界各国の人たちにとってハードルの高い「異文化」でしょう。そんな中、地域に根ざして異文化での子育てを楽しんでいる海外出身のお母さんは、まさに最強のグローバルマインドの持ち主。今回も、その尊敬すべき異文化適応能力に迫ります。

何もかも違った 日本の子育て

台湾で生まれ育った呉宛儒さんは、日本人男性と結婚し、2003年から東京都目黒区で暮らし始めました。それまで、旅行では何回も訪れていた日本。移住に不安はなかったと言います。「婚姻届にサインをする瞬間は、ものすごくドキドキしましたね。でも、大反対の両親に『娘を信じて!』と言い切って決めた結婚。迷いはありませんでした」

まもなく子どもを授かり、日本での子育て生活がスタート。それからは、台湾と日本との「違い」に驚く毎日でした。

「台湾では、近所の公園に行けば、すぐ友だちができます。日本では、なかなか心を開いてもらえなくて。私が外国人だからなのかな、話しかけると、ものすごい警戒心と緊張が伝わってきました」。児童館に足を運んでみても結果は同じ。ママ友づくりにここまで苦労するとは思いもよらなかった、と呉さんは言います。

また、大半が共働きの台湾では、0歳のころから親戚や友人など様々な人の手を借りるので、幼稚園入園の段階で、親と離れるときに泣く子どもは皆無。「慣らし保育」は不要で、入園直後からフルタイムで預けられます。さらに、給食と1日2回のデザートが出るので、忙しい朝にお弁当を作る必要もなし。午後7時ごろまで無料で預かってくれて、子どもが病気になったら、仕事を途中で抜けても職場の誰かが穴埋めしてくれるのが当たり前です。

「台湾に比べると、日本の子育ては信じられないほど大変!日本のお母さんたちは本当にすごいです」。そう語る呉さんの表情は、終始サッパリとした笑顔。ここまで異文化の壁に遭遇したら、多少くじけてもおかしくはなさそうですが……

やっと見つけた!日本人も外国人も子連れで集える場

多言語で絵本の読み聞かせをする呉さん(写真左)

日本で子育てをしている母親たちが多言語電子絵本の制作に取り組む(写真提 供:NHK厚生文化事業団)

「台湾は多言語多文化社会ですから、『違い』に対してなんの違和感もないんです。台湾と日本の子育てが違うのは当たり前。大変だけど、嫌だとは思いません。ここで生活していくためには、私自身が日本の文化や習慣を学ばないと」。言語や文化の違いに落ち込むことなく、1つ1つの経験を前向きに楽しんできた呉さん。その後も、積極的に地域の子育てコミュニティとつながる機会を模索し、ついに最高の場を見つけました。

「2006年、息子が3歳のときに、中目黒スクエアを拠点に活動している『にほんごの会くれよん』を知りました。この会の魅力は、ただ日本語を学ぶだけではなく、生活上の問題を自分で解決する力を身につけられること。日本人も外国人も子連れで学びに来ていて、『もっと早く知りたかった!』と、心から思いました」

今すぐ使える生活の日本語を熱心に学び始めた呉さん。その後は、にほんごの会くれよんが新たに立ち上げた「多言語絵本の会RAINBOW」の一員となり、日本の絵本をさまざまな言語に翻訳・録音して、多言語電子絵本を制作したり、地域での読み聞かせ活動に参加するようになりました。

「日本で子育てをしている海外出身のお母さんたち、のべ100人以上が参加してくれて、『かさじぞう』『はなさかじい』など、これまでに合計15作品(総言語数は約150)の多言語電子絵本を制作してきました。日本で子育てする海外出身のお母さんたちが、心のよりどころとなっている母語をお子さんにも伝えていける環境づくりに貢献できれば」と、代表の石原弘子さん。呉さんは現在、数名のメンバーとオリジナル絵本の制作にも取り組んでいます。

日本で子育てをしている母親たちが 多言語電子絵本の制作に取り組む (写真提供:NHK厚生文化事業団)

多言語で絵本の読み聞かせをする呉さん(写真左)

4人きょうだいのうち、自身を含む3人が国際結婚という呉さんにとっては、3〜4言語使うのが普通。日頃の会話では「間違わないことよりも、気持ちがしっかり伝わることを大切にしている」と言います。翻訳の作業においても、一字一句を機械的に置き換えるのではなく、物語の文脈をしっかりとおさえて、登場人物の感情が伝わるよう、何冊もの辞書を引き比べながら、最適な表現を推敲していくのだそう。

「息子の小学校にも、読み聞かせに訪れたことがあります。息子には、あらたまって多様性の良さや共生の大切さを教えたことはありません。しかし、この活動をしている私の姿を見ているからか、日本と台湾の両方にルーツを持っていることに自信を持ってくれているようです。私は、この会に参加して人生が180度変わったと感じています」(呉さん)

現在は、多言語電子絵本作品を収録したDVDを教育現場などで活用してもらえるよう、広報活動も展開中。言語・文化の違いを超えて協働する呉さんら母親たちの姿から、地域の子どもたちは共生の心を学んでいます。

■にほんごの会くれよん

http://www006.upp.so-net.ne.jp/crayons/

■多言語絵本の会RAINBOW

http://www003.upp.so-net.ne.jp/ehon-rainbow/

https://www.facebook.com/rainbow.ehon

■代表・石原弘子さん

jcrayons@yg7.so-net.ne.jp



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